未来小説「ニューライフ」凛子の不思議その3

「不思議だったんだよなあ。」

新宿の居酒屋チェーン店で英知は友人の丸山に言った。
「そうだなあ、なんであんな美人が英知についたのか分からんな、でもお前のその発言、単なるノロケにしか聞こえないよ。」

 なんで凛子のような女性が英和のところに来たのか分からなかった。
何せ結婚相談所の英知の自己紹介に書いた年収は200万円だったからだ。
収入を示す源泉徴収証か確定申告収入証明書のコピーを出さないといけないのでウソはつけなかった。200万円はアルバイトの収入だ。
 だが結婚相談所に申し込んでからすぐに、運よくまともな仕事に就けた。収入欄を修正しようと思ったのだが確定申告に代わる収入を証明するものを提出するのが面倒だった。それと収入が少なくても付き合ってくれる女性がいればいいかと甘い考えをもってもいた。だが実際は収入欄を変更する前に凛子と出会ったというのが本当のところだ。
 10年前の2010年春英知は大学四年生になったが大変な目にあった。
 頭はそれほど悪くなく大学経済学部に入学し卒業したが就職ができなかった。偏差値の高い大学は不況期でも就職口があるものだが、100年前の世界恐慌以来の大不況で英知の世代とその後の世代は大変な苦労をした。
 当時政府は108兆円の新型コロナウイルス緊急対策を行ったが、5月になるとある程度収束したので第二次経済政策は遅れた。当時10%だった消費税減税は財務省の抵抗もあって国会では議論もされなかった。
 結局11月になって新型コロナウイルスA型の第二波が来てしまった。第一波感染後免疫保持者は全国平均で1%しかおらず、第二波は11月から翌年2021年5月までの長期となり、また1年前落ち着いていたインフルエンザが猛威を振るったので犠牲者は第一波の数十倍になった。
 その後コロナウイルスA型、B型、C型で10年経済は混乱し、この間企業は新卒採用を極端に絞り込んできた。当然失業率はここ10年15%で推移してきている。
 結局英知は卒業の年に就職ができず翌年もダメだった。
 どうせ就職できないと思い海外に5年ほど放浪の旅に出た。幸い英知は新型コロナウイルスの免疫を持っていたので海外に行けた。おそらくウーバーイーツをバイトでやってて東京の街をあちこち行ってたのでその時感染していたのだろう。
 最近まともな仕事についたことを丸山にも凛子にも言っていない、今も凛子は英知がアルバイトの収入しかないと思っているはずだ。
 男は収入だけではないのかもしれないがさすがに200万円の男性に凛子ほどの女性がアプローチしてくることは考えられないと英知も不思議に思っていた。

2030年11月1日(金曜日)