未来小説「ニューライフ」凛子の不思議その4

 カーテンの隙間から朝の光が入りだしている、まだ朝は早い、英知彼女の頭から腕をゆっくりと抜いた。
 昨夜見たものは本当だった。暗闇のなかでみたものが今はっきり見える。
 薄明りのなかで彼女の顔が見える。きれいな目鼻立ちをしている。
 でも顔に大きなあざがある。

 鼻から口、口から顎にかけてきれいなラインをしているが、そこに大きな青いあざがある。ちょうどマスクで隠れるぐらいの大きなあざだ。
 昨晩そのあざを見た、マスクを外したら薄明りの中に見えたのだ。

 その瞬間英知は何かすべてを納得してしまった。

 ふいに腕を取られたが、振り払わなかった。それは振り払いたくなかったこともあるが、罠ではないと思ったからだ。
 そう彼女は大きなあざがあるからそれがコンプレックスなのだ。これだけきれいな目鼻立ちをしてスタイルがよくて知的なのに顔に大きなあざがあるから男性に対してひけめを感じているのだ。だから英知のように収入が低い男、本当は今は違うのだが、に近づいてきたのだ。
 彼女の顔を近くで見れば見るほど美しい、そうあざを除いて。
 しばらくして彼女は眼をさました。
 朝6時ぐらいだろうか部屋はまだ薄暗いがカーテン越しに光が入っている。彼女は顔にあるあざを全く気にしている様子がない。
 しばらくして英知が仕事にもう行かないといけないと言うと
「お仕事の時間ね、行かないといけないの?」

 英知は朝から新しい職場での会議が予定されていた。
「廊下に出ても大丈夫かな、寮のおじさんいないかな。」と言うと。
彼女は笑って
「寮におじさんがいるって言うのは男の人を近づけないためよ、そう言ったでしょ、そんな人いないわ。」
「でも、ここは寮?普通のマンションに見えるけど」
「嘘じゃないわ、ここは会社の寮、中古のマンションを会社が買ってそれを女子寮にしているの。だからご近所さんはみんな会社の女の子、とオバさん。」
「男は出入りしていいの?」
「規約にはなにも書いていないわよ、今時そんなこと会社も言えないでしょ。」
 そんな話をしていると本当に英知は仕事に行かないといけない時間になった。
英知がソファから立とうとすると、再び昨夜のように腕を引っ張られてソファに倒れこんだ。
「仕事に行ってもいいけど、約束して、今度の週末鎌倉に連れてってくれる?」
約束してくれないと寮のおじさん呼ぶからとまた笑う。
断る理由などなにもない。
周りを気にして玄関から出るときに彼女を今一度抱き寄せながら、静かにでないといけないなと言うと、
「誰かに見つかっても大丈夫よ、私にもようやく彼氏ができたってご近所さんに思ってもらえるから」
とまた笑う。
 マンションから出て振り返ると窓から彼女が見送っている。裸の体に毛布をまとってそこから片手を出して手を振っている。なんときれいな彼女なのかと英知は思った。
2030年10月24日(木曜日)朝