未来小説「ニューライフ」コンビニの買い物

 喫茶店に行く途中の新宿区戸山公園にある公営の体育館の中にあるコンビニエンスストアで買い物をしなくてはいけない。
 小比戸英知は今日結婚相談所で知り合った女性にこの公園近くの喫茶店で会うことになっている。その前に大事なものを買っておくのを忘れてしまった。
 半年ほど前に英知は結婚相談所に申込みを出したが履歴書の段階で相手から断られたり断ったりで次のステップになかなか行けなかった。
 ようやく第一ステップの喫茶店での「面談」にこぎつけた、結婚相談所では最初の顔合わせをデートとは言わずに「面談」と呼んでいる。その第一段階の「面談」で男女ともにOKを出すと次のステップである「デート」になる。
 新型コロナウイルスが広まって以来過去10年の間に男女の関係や家族の姿は大幅に変わってしまった。
 特に国として大きな問題になっているのは出生率の大幅な低下だ。新型コロナウイルスが発生する前年2019年の出生率は1.4人だった。
 新型コロナウイルスが日本で広がった翌年2021年出生率は一時的に1.9と人口置換水準(人口が増加減少しないレベル)の2.1にかなり近づいた。これは新型コロナウイルスで外出をしなかった夫婦が子作りにいそしんだからだと言われている。
 しかしその後出生率は急激に下がり今年2030年は0.4人になっている。出生率の低下は経済にブレーキをかけデフレとなった。
 出生率低下の最大の原因は結婚する人が急激に少なくなってしまったからだ。
 新型コロナウイルス感染を恐れるあまり人々は政府の言う「ニューライフ」を受け入れテレワークが広まり、また飲み会もパソコンでのテレ飲み会になっている。その結果男女が職場や飲み会で実際に出会うことがなくなってしまった。今男女ともに一生結婚しない人は10人に8人と言われている。
 出会いの機会が少なくなっただけでなくデートをするのも大変になっている。デートする場合マスクを着用するのは必須で、おしゃれなマスク(勝負マスク)をして行かなくてはいけない。今や1万円を超えるマスクもあるが最初に女性に会う時はシンプルで清潔感あるマスクが成功率を高めるらしい。
 さらに絶対にデートの前にやっておかないといけないのはPCR検査だ。10年前新型コロナウイルスが広まった際にマスコミが繰り返してPCR検査が必要と繰り返したため、国民にPRRは絶対必要だと刷り込まれてしまった。
 ビジネスはほとんどテレワークになっているが実際に同じ部屋で会議を持つときは事前にPCR検査をしてその結果を相手に見せることになっている。政府の「ニューライフ」政策で名刺交換は礼儀に反することとなりその代わりにPCR検査の結果を相手に見せることが今は挨拶となっている。
 今日も英知は最初女性にPCR検査の結果を見せなくてはいけない。
 英知がコンビニエンスストアで買わないといけないのはPCR検査キットだ。PCR検査はどこでも手に入るし、それは簡易キットだが正確に検査できるようになっている。
 そのコンビニエンスストアPCRキットは1ダース12回分で800円だ。英知は支払いを済ませたが、レジ横にコンビニエンスストアのバイト時給800円の求人広告が貼られている。

2030年10月16日(水曜日)午後